去る8月23日、名古屋市中区にある名古屋能楽堂にて「第3回日本吟剣古武道大会」が盛大に開催されました。伝統芸能の殿堂ともいえる能楽堂の舞台で、吟詠・剣舞・居合道といった日本古来の武道・芸術が披露され、会場は静謐さと緊張感に包まれていました。私自身も参加の機会をいただき、日頃から鍛錬を重ねる出演者の真剣な姿に胸を打たれました。
その舞台で思いがけずご縁をいただいたのが、世界的なファッションデザイナーとして知られる故・森英恵先生(1926~2022)のご子息、森顯先生でした。森先生は居合道での演武に出場され、その気迫あふれる刀さばきと凛とした佇まいには、武道家としての精神と伝統を受け継ぐ強さを感じました。
さらにご家族に目を向ければ、お嬢様はタレント・モデルとして幅広く活躍されている森泉さん。まさに華やかな芸術と厳格な伝統武道、そして現代文化を結びつける一家であることに、深い感銘を受けました。
世界に羽ばたいた「蝶のデザイナー」森英恵先生
ここで改めて触れておきたいのが、森顯先生のご母堂である森英恵先生のご功績です。森先生は、戦後の日本を代表する世界的ファッションデザイナーとして知られています。特に蝶をモチーフにした華麗で独創的なデザインは「ハナエ・モリ」を象徴するものであり、世界の舞台で高く評価されました。
パリやニューヨークのコレクションでは、その独自の感性と繊細な色彩感覚が喝采を浴び、名だたるブランドと並び立つ存在に。さらには、あのオードリー・ヘプバーンやグレース・ケリーといった世界的スターに衣装を提供したことでも広く知られています。日本人として初めてパリ・オートクチュール協会の正式会員に選ばれたことは、まさに歴史的快挙であり、日本ファッションの国際的地位を大きく高めるものでした。
その功績から「東洋の魔法使い」と呼ばれた森英恵先生。戦後の復興期から世界のファッションシーンへ挑み続け、日本の女性たちに夢と誇りを与えてくれた存在といえるでしょう。
森家に息づく伝統と革新
一方で、そのご子息である森顯先生が居合道という伝統武道に取り組んでおられることは、大変印象深いことです。華やかなファッションの世界と、厳粛で静謐な武道の世界――一見対照的に思える両者が、森家というご家庭で自然に共存していることに、日本文化の奥深さを感じます。
また、お嬢様の森泉さんは、自由で明るいキャラクターで多くの人に親しまれ、タレントやモデルとして幅広い分野で活躍中です。伝統、芸術、そして現代的な感性。三世代にわたって多彩な表現を形にされている森家は、日本文化の懐の深さを象徴しているように思えてなりません。
出会いの中で感じたこと
今回の日本吟剣古武道大会での出会いを通じて、改めて日本文化の広がりと奥深さに思いを馳せました。ファッション、武道、芸能といった異なる舞台であっても、それぞれが日本人としての誇りを胸に、世界に向けて表現を続けていることに強い感銘を受けます。
森英恵先生の築かれた功績は、今もそのご家族を通じて脈々と受け継がれている。その事実を目の当たりにした今回のご縁は、私にとって大きな励みであり、地域や国の発展のために活動を続ける力にもつながりました。
これからも、こうした出会いを大切にしながら、日本の伝統と文化を守り、次世代へとつなげていきたいと思います。
